タカミネがエレアコ黎明期に製品化した「ブラウン・プリアンプ」は、増幅素子FET特有のサチュレーション効果がもたらすウォームなサウンドが、ライ・クーダー、デビット・リンドレーを始めイーグルス、ジェームス・テーラー、ジャクソン・ブラウン、ブルース・スプリングスティーンなどアメリカの著名アーティストの支持を集め、瞬く間に世界中で知られるギター・ブランドとなり現在に至ります。創業60周年に向けて、オリジナル機のテイストを保ちつつ、細部の見直しとノッチ・フィルターやチューニング・メーターといった新たな機能を加えたFETプリアンプ「CTF-2N」を設計、「THE 60TH」 「LTD2022」に搭載しました。
これまでもブラウン・プリアンプ復刻のリクエストは幾度となくあったのですが、安易に実現に向かう事はありませんでした。実際にオリジナル機のサウンドの、未だに支持される理由と現代では通用しない問題点の両方を知っていたからです。それよりも魅力的に感じる時代ごとの技術と向かい合い、デジタル・プリアンプAD-1、真空管を電池駆動させるCTPシリーズ、18ボルト高電圧ドライブ・デュアルPUシステムCT4-DXと、エレアコの“今”を展開する事に注力してきた訳です。60周年を迎え、エレアコの原点を見つめるというテーマの元、初めて現代版ブラウン・プリアンプの実現に向かい合いました。
オリジナル機の部品をひとつずつハンダごてで外して分解しながら回路パターンを読みテスト・ボードに展開する事に始まり、現在入手可能なFET素子に乗せ換えてのヒアリングを行いました。
オリジナル機のハイEQは、エレクトリック・ギターのトーン・コントロールに近いパッシブ回路で、センターの0ポジションで既に半分ほど高音はカットされています。又、フルカットした際には大巾に音量感まで下がる印象なのですが、オリジナルのサウンド・テイストを保つ事を最優先にしました。
次にローEQに注目するとハイに比べて変化幅が非常に少なく感じられました。ローEQに関しては、増減幅を広げハイEQと同じ感触になるよう手を加えました。
またオリジナル機のローEQはブーストした際に開放弦のE音と比べ3フレットのG音ではすでに少し音圧が下がっていた為、ピーク周波数を5Hzほど上げる事でスムーズに感じられるようアレンジしました。
P.A.ミキサー側でのEQ補正にサウンドを預けるプロ・ミュージシャンのステージでは2バンドEQで十分ですが、手元で耳障りなハウリングを抑えなければならない一般の使用環境に向けて、特定の周波数をカットできるノッチ・フィルターを追加しました。CT4-DX以降のタカミネ・オンボード・プリアンプに採用しているノッチ・フィルターは、0Hzから5KHzの間で任意の周波数をカット、-6dB/-12dBの選択により、深く切る事でミッド・カットEQとしても活用出来ます。また、1998年にタカミネがデジタル・プリアンプAD-1に世界で初めて搭載し、現在ではエレアコ・プリアンプの標準機能となっているチューニング・メーターも装備。
更に、オリジナル機からの見直しは続きます。黎明期のエレアコはマスター・ボリューム最大時の音量が大き過ぎて接続先の機材で受けきれずに歪んでしまう場合がありました。その為、現代ではエレアコの最大音量は当時より6dB程低く設計されています。概ねのモディファイが終わった最終段階で、入力部分での歪みが確認されました。FET素子を用いたプリアンプでは、真空管に似たサチュレーション効果が特有のウォームなサウンドを生成しており、オリジナルのブラウン・プリアンプが多くのミュージシャンに支持された最大の理由でした。現在の再生環境は、DTM用の手頃なスタジオ・スピーカーでさえ、当時では再生しきれなかった微妙なサウンドも明確に聴き取れます。
オリジナル機では、強いピッキング時に入力の初期段階で既にサチュレーション効果を超えて、歪む事が確認されました。個人差やプレイスタイルで変化するピッキングの強弱範囲を吟味しながら入力段の調整を繰り返し、FET特有のウォームなサウンドを実現するプリアンプ「CTF-2N」は完成しました。
創業60周年を迎える2022年、エレアコの「原点」を「今」に伝えるCTF-2Nのサウンドを是非、体感してみて下さい。